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より良く、そして環境に優しい船舶設計を目指しますか?運航データがその力になります。
シミュレーションツールは、航海最適化や、運航の安全性と持続可能性を高める高度な復原性ソフトウェアの基盤としてよく知られています。そして今、このデジタルツールに新たな役割が生まれつつあります。それは、設計段階で仮想的に新しい船舶のコンセプトを試すことで、船舶設計におけるイノベーションを推進することです。 海運業界は今、様々な燃料やエネルギーを必要とする時代を迎えようとしており、それはますます個々のニーズに合わせた設計と同義語になっていくでしょう。燃料や技術の選択肢は、船舶の種類や用途によって最適なものが異なります。また、最も適切なソリューションは、船舶の運航状況や航行ルートによっても異なります。 例えば、最近、タグボートやフェリーにバッテリー技術が採用されたことは、これらのシステムが、特定の近海航路を航行する小型船舶に特に適していることを示しています。一方、風力推進システムは、強力で安定した風が吹く外洋航路の船舶に最も効果的です。寄港地で燃料補給ができるかどうかも、LNG、メタノール、アンモニアなどの代替燃料に関する決定に影響を与えるでしょう。 しかし、これは、こうした斬新なコンセプトの開発を担当するエンジニアや船舶設計者が、設計段階で下さなければならない多くの決定事項の内のほんの一部にすぎません。課題は、新しいエンジン、タンク、技術を統合することだけでなく、安全性、効率性、収益性の観点から、これらの設計が海上で有効であることを保証するために、適切な構成、寸法、積載量、強度、船体形状を選択することにあります。 最終的な目標は、船舶設計者が設計の初期段階から、新しい船舶コンセプトが就航後にどのような性能を発揮するかをモデル化できるようにすることです。迅速かつ簡単にこれを行えるようになるのが理想的です。そうすれば、様々な検証を繰り返し行い、コンセプトを確実に最適化することができます。 従来、設計者は類似船のデータに基づいてこれらの評価を下してきましたが、このデータは不完全であることが多く、また、過去において平均的にうまく機能してきた簡略化された規則に基づいて作成されている場合があります。このアプローチは、船舶設計にとってもはや最適な方法ではなく、技術革新を阻害する恐れもあります。さらに、過去のデータが存在しない全く新しい設計の場合はどうでしょうか?その答えは、すでに船舶の運航で広く使用されているツールにあり、それを船舶設計のための新たな見識を引き出すために再利用することです。 未来のパフォーマンスをシミュレーションする3つのステップ 実際の業務ではどのように行われるのでしょうか?類似船舶のデータが入手できない場合でも、以下の3つのステップに従うことで、未来の船舶性能をモデル化することができます。 ステップ1:流力性能モデルの作成 船舶の設計に使用された3Dモデルに基づいて、流力性能モデルは、特定の船舶がさまざまな速度や海象条件下でどのように機能するかを把握する。 流力性能モデルをゼロから構築することは、多大な時間と労力を要する作業になる可能性がありますが、その必要はありません。NAPA性能モデルは、世界中のすべての既存の船種とサイズに対応する基準モデルを提供し、この分析のための最適な枠組みとなります。その後、新しい設計の独自の特性を反映したデータによって調整されます。 ステップ2:運航計画の決定 これは、本船が運航される地域や寄港地だけでなく、想定される速度の範囲や本船が受ける積付条件についても概要を示すものです。 これは、すでに船舶の運航状況を詳細に把握している修繕計画においては容易なことですが、新造船の場合は、AISデータから多くの情報を得ることができます。NAPAのデータベースは、数年にわたる6万隻の船舶のAISデータで構成され、このデータの意味を理解し、船舶タイプや サイズごとにフィルタリングするなどのアルゴリズムによってサポートされています。実際、このデータベースは、どの地域で、どのようなタイプの船舶が、どのように運航されているかという貴重な情報を提供しています。 ステップ3:現実的な運航のシミュレーション 流力性能モデルと運航計画を一緒にすることで、特定の航路における未来の船の性能をモデル化することができます。 NAPA Voyage Optimizationはまさにそれを実行するように設定されています。このツールは天候に左右される航海のために作られたもので、複数の航路バリエーションにおける船の挙動をシミュレートすることで、世界のどこでも2つの港を結ぶ最適な航路と速度分布を決定します。 その第一の目的は運航ですが、まだ図面にしか描かれていない船舶のコンセプトに対して、理論的な航海をモデル化する目的にも利用できます。 過去の気象データと、関連する海域や時期の統計的気候データを使って、船舶が運航する海域の気象条件や海況を再現します。そうすることで、未来の船舶の速度範囲、エンジン負荷、燃料消費量、運航中の温室効果ガス排出量をモデル化することができます。 よりエネルギー効率の高い船舶の設計に加え、NAPAの運航シミュレーションツールは、より安全で耐久性の高い船舶の開発にも利用できます。船舶設計者は、未来の船舶の耐航性能を評価し、船舶がその耐用期間中に航行する現実的な条件や航海に必要な構造荷重を評価することができます。 船舶設計者にとっての最大の利点は、さまざまな設計の繰り返しにおいてこの分析をすべて繰り返し、船主独自の運航ニーズを満たすにはどのオプションが最適かを判断できることです。 ケーススタディ – 繰り返し設計の検証 これが実際にどのようなものかを説明するために、バルト海のストックホルム、マリエハムン、ヘルシンキ間の航路に就航する新造RoPax船を例にとってみましょう。 私たちはまず、全長197メートル、幅31メートル、設計喫水7.1メートルの基本船型から始めました。その後、排水量(または重量)を一定に保ちながら、それぞれ寸法と構造を変えた3つのバリエーションを作成しました。 次のステップは、3港間の航路、スウェーデン群島での速度制限、入港時の低速などを考慮した運航計画を立てることです。これをもとに、2023年全体をカバーする26航海(2週間に1航海)のシミュレーションを行いました。 その結果、設計改善のための豊富な情報が得られ、未来の船は航行時間の約50%を全速力で、25%を港で過ごし、残りを低速で運航することが明らかになりました。これは、必要な推進力レベルを理解し、エネルギー効率を最大化するための適切なエンジン出力と構成の選択に役立つため、設計の観点からは貴重な知見です。 新燃料とエネルギー源のシミュレーション これをさらに一歩進めれば、将来の燃料消費量のシミュレーションを行い、特定の船舶のさまざまな燃料オプションのコストと排出削減効果を比較することができます。今後のEU ETSと FuelEU罰則を計算に含めることで、この10年間と将来における燃料コストを包括的に把握することができます。このようなシミュレーションは、新たな運航コストを考慮した場合、設計のバリエーションによる大きな違いを明らかにすることができ、最終的には船主の大幅な経費削減につながります。このような分析の不確実性は、予測される燃料価格と規制コストの精度に左右されますが、規制の状況や価格予測が明らかになるにつれて、運航シミュレーションツールはさらに強力になるでしょう。 将来を見据えた船舶設計のために、従来と異なる思考を なぜこのようなビジョンが重要なのでしょうか?なぜなら、海運業界が脱炭素の未来に向けて自信を持って前進するためには、船舶設計の選択と同じくらい重要な決定が、データと証拠に基づいて行われなければならないからです。 このシミュレーションは、既成概念にとらわれず、すでに自由に使えるシミュレーションツールを最大限に活用することで、今後先駆者となる船主が直面する最も重要な疑問の1つである、「新造船が安全で効率的、コンプライアンスに適合し、経営上のニーズに応えることができるか」、という問いに明確な答えを提供できることを示しています。 EUETS、FuelEU、IMOのGHG戦略など、新たな環境規制が導入され、エネルギー効率の高い設計や、最終的には新燃料への移行が求められる中、船舶設計の革新はもはや「あればいい」ものではなく、不可欠なものとなりつつあります。 今日、環境対応型船舶がより良い傭船料を獲得していることがすでに確認されており、特定の船種では割増料が1日あたり1万米ドル、あるいはそれ以上に達しています。しかし、より多くの船主に決断を促すためには、彼らの投資がいかに健全で、多くの場合20年以上に及ぶその耐用年数を通じて、彼らの資産がいかに将来性を保ち、コンプライアンスを遵守できるかを、確かなデータ分析によって証明する必要があります。 より広い意味で、これは船舶設計の革新を支える運航データの力を証明するものでもあります。海上に革新的な船舶の数が増えるにつれ、設計データと運航データの間に新たな架け橋を作る機会が私達にはあります。これは、実際の運航から得られる知見を設計プロセスに反映させ、将来の船隊の性能を向上させるためには非常に重要なことです。船主と造船会社が匿名化された安全なデータ共有に協力する必要がありますが、それだけの価値があるはずです。海事業会、人々、そして地球、すべてが恩恵を受けることになるのです。
Read Article10月 25, 2024
造船会社の多面的な効率性の課題へのデジタル対応
競争市場、人口構成の変化、エネルギー転換に共通するものは何でしょうか。それは、船舶の設計・建造プロセスにおける効率化の必要性を推進する強力な力であり、それがこの分野のデジタル・トランスフォーメーションを加速させているという点です。 市場の地殻変動が起きています。中国、韓国、日本といった世界の造船大国間の競争は、個々の造船会社やエンジニアリング企業間の熾烈な競争のうち、最も目に見えるものの一部分に過ぎません。 造船会社は新造船の受注を競うだけでなく、新しい燃料や技術を推進力とする革新的な船舶を求める新興市場において自らの地位を確立し、その技術を開発しようとしています。このような状況において、納期を短縮し、より優れた設計を生み出し、かつ財務的に健全な事業を維持できる造船会社は、競争優位に立つことができるでしょう。 生産性の向上は、もはや「できればいいもの」 ではなく、企業の事業戦略の中核をなすものでなければなりません。これは、企業活動の将来を見据えた必須の戦いです。 労働力不足 競争が熾烈になる一方で、多くの造船会社やエンジニアリング会社、特に中小規模の会社は、労働者や技術者不足のために片手を後ろ手に縛られているような状態で戦っています。日本と韓国の急速な人口減少の中で、造船業界に新たな人材を惹きつけることはますます難しくなっています。韓国では、COVID-19規制が解除されて以来、熟練労働者の不足がここ2、3年で特に深刻になっていますが、問題の根源は10年前の大規模な市場低迷に伴う解雇にまで遡ります。 造船会社によっては2027年まで受注が満杯という新造船への需要が高まり、エネルギー転換のニーズに後押しされて技術革新が進んでいる最中に、このような採用難が発生しています。一部の造船会社では、人員不足とエンジニアリング業務増加の直接的な結果として、すでに納期遅れに直面しています。設計と建造の両チームで、既存の労働力の生産性を最大化するための対策を講じなければ、活況を呈する市場のチャンスを掴むことはできず、競合他社にシェアを奪われる可能性があります。 デジタル技術は、若い世代にとってこの業界がより魅力的なものになることと、生産性を高めるために設計プロセスを合理化することの2点において、人材確保の問題改善に役立ちます。 データはいかに効率化を促進し、より良い船舶設計をサポートするか 根本的な(そしてデジタル的な)変化はすでに進行しています。世界中のあらゆる規模の造船会社やエンジニアリング会社が、効率向上のための解決策を模索しています。その結果、造船会社によってデジタル化のレベルや規模は異なるものの、3Dモデルの使用はより広まり、設計プロセスに不可欠なものとなりつつあります。 初期のコンセプト段階から詳細設計、船級承認、そして建造に至るまで、設計プロセス全体で一貫した3Dモデルの使用を可能にすることで、部門間のサイロ化を解消し、効率的なフィードバックループの実現が可能です。また、データ入力や変換に費やす時間を削減し、エラーのリスクを抑えることもできます。最終的には、下流の生産設計で3Dモデルを再利用することで、重要な意思決定をサポートする正確な情報を提供するとともに、生産計画から調達までの時間を節約することができます。 NAPA Designerによるクイック3Dデザイン エネルギー転換に必要な技術革新のペースの速さを考慮すると、プロセスの合理化を支援するデジタルツールは、新しい燃料や技術の複雑さと工学的な課題を解決するための、より効率的で協力的な業務フローを構築するための基盤となっています。 デジタルの時代は、設計初期段階から将来の船舶性能をモデル化できる3Dシミュレーションツールの活用に扉を開いています。仮想航海シミュレーション、代替燃料の比較、風力推進装置シミュレーション、積付条件シミュレーションなどの評価分析はすべて、船舶設計者やエンジニアがさまざまな選択肢を検討し、これまでの経験だけに頼ることができないこの時代において、最善の意思決定をしていく上で既に役立っています。 適切なツールとともに、効率的な業務フローは、手作業によるデータ入力を減らし、重複作業を削減することで、船舶設計者やエンジニアが作業量の増加と複雑さを上手く管理できるようにし、各人が本来の設計作業に集中できるようにします。これらの改善により、迅速な設計の反復と柔軟な変更管理が可能になり、生産性の向上とすべての関係者にとってより良い設計の意思決定に貢献します。つまり、これらの迅速な設計プロセスは、競争力を維持し、革新的であり続けるために不可欠なのです。 船舶設計の未来 この機会を利用してデジタルツールを活用しプロセスを改善する企業は、今日、時間を短縮し、設計に付加価値を与えるだけでなく、効率性と革新性が重要な差別化要因となる今後の市場において、競争力を維持するための適切な基盤を構築することになります。つまり、今デジタルトランスフォーメーションを取り入れることで、造船会社が進化し続ける業界において成功するための準備を整えることができるのです。 長期的には、現在進行中の情報・技術革命は、デジタル建造からデジタルツインに至るまで、造船会社が新たな価値を生み出す世界を切り開くでしょう。例えば、造船会社が製造設備の模型をデジタルで作成し、業務フローや建造工程、建造アウトプットをシミュレーションし、最適化が可能になります。 これからの道のりは、挑戦的であると同時にワクワクするものでもあります。現在進行中の技術とエネルギーの変革は、造船会社の新たなビジネスモデルを確立していき、これにより市場の地殻変動はさらに進み、新たな専門分野が形成されるとともに、よりスマートな造船を実現するための技術活用の機会が開かれることになります。 本記事に関するお問い合わせ先:
Read Article9月 30, 2024