Skip to content

August 19, 2026

なぜ運航シミュレーションが設計部門に必要なのか

船はすべて仕様書に基づいて設計されます。しかし仕様書が想定するのは静水、ひとつの設計船速と喫水です。実際の船は、荒天の中で、特定の航路を、様々な船速と載荷状態で航行し、また過去のフリートを想定して策定されたものではない規制の下で運航されます。

この二つの現実との間のギャップは以前から存在していました。変わったのは、鋼板を1枚も切る前の設計段階でこのギャップを埋めるためのツールを、今は手にしているという点です。

ひとつの設計点に基づく設計の問題点

従来の船舶性能評価手法は、EEDI、設計船速における契約上の馬力曲線、そして平水中馬力に通常15〜25%を加えるシーマージンといった、ごく少数の指標に依拠しています。波、風、船体汚損、ウェザールーティングの判断、季節変動――これらすべてが一つの数値に吸収され、その船の実際の航路にほとんど遡ることができません。

この手法は、実績のある航路を航行する従来型の船舶についてはこれまで十分に機能してきました。しかし、もはやそれでは不十分です。

EU ETS、FuelEU Maritime、そしてIMOの進化するGHG戦略により、運航時の燃料および排出コストは、設計段階の指標だけでは測れないほど重要性を増しています。EEDIを満たす船であっても、想定する航路ではCIIレーティングがDやEになることがあります。これはオーナーが数十年にわたって抱える、商業上および規制上の負債です。

船舶設計者が今答えるべき問いは、もはや「この設計は仕様を満たしているか」だけではありません。「この船は実際に経験する条件下で、実際に航行する航路において、どのような性能を発揮するのか」という問いです。

運航シミュレーションが可能にすること

最新のシミュレーションツールを用いることで、設計者はハインドキャスト気象データ、AISから導出した航路パターン、実際の載荷・船速プロファイルといった実運航条件と、設計モデルを直接結びつけることができます。船舶性能モデルは、設計を確定する前にこれらの条件下で検証されます。

これは研究段階の取り組みではありません。NAPAのアプリケーションで現在サポートされているワークフローであり、造船設計者の日々の業務を具体的な形で変えるものです。

船型最適化は実際の運航条件に基づいて行われます。 ひとつの設計点における平水中における抵抗を最小化する代わりに、設計者は想定する航路で船が実際に経験する馬力・船速の分布に対して、複数の船型案を評価することができます。設計点でのわずかな性能低下も、その航路の大部分を占める運航範囲全体で計測可能な利得が得られるのであれば、許容されうるものです。

シーマージンは分布として扱われるようになります。 平水中における馬力にただひとつのマージンを適用する代わりに、設計者は実際の航路から導出された馬力・船速分布を用いて作業します。必要な馬力の95パーセンタイルがMCR選定の技術的根拠となります。推進機器サプライヤーとの協議も、従来の単一の設計点から、曲線とパーセンタイルの選択についてのものへと変わります。

タンクサイジングは実際の消費量に基づいて行われます。 燃料タンクの容量は、シーマージンを加味した燃料消費率に名目上の航続距離を乗じるのではなく、想定航路上の予定バンカリング地点間でシミュレートされた消費量の分布に基づいて決定されます。

ESD(省エネデバイス)はカタログ値ではなく、エビデンスに基づいて評価されます。 風力補助装置や空気潤滑システムは、裸殻船体と同じ物理モデル・同じ環境条件下で、実際の航路上でシミュレーションされます。その結果、得られるのは、燃料質量、コスト、規制上のコンプライアンス負担における実現可能な年間削減量であり、その背後にある分布まで示されます。

規制上のリスクは、事後に発覚するのではなく、事前に予測されます。 EEDI計算を支えるのと同じモデルから、現実的な運航条件下での設計案について、達成CIIの推移、FuelEU適合バランス、EU ETSコスト予測が得られます。設計者は、対応コストがまだ低いコンセプト段階で規制リスクを特定することができます。

具体例:ケープサイズ バルクキャリア、ポートヘッドランド〜浦項(ポハン)航路

運航性能シミュレーションにおけるNAPAのルートプランニング画面

これが実際にどのようなものかを示すため、オーストラリアのポートヘッドランドと韓国の浦項(ポハン)を結ぶ、世界の海上輸送でも取扱量の多い鉄鉱石航路の一つを想定し、ケープサイズ バルクキャリアをシミュレーションした例をご紹介します。使用した船型は、国際的な検証研究で広く用いられている、特性が十分に把握されたベンチマーク船型であるJapan Bulk Carrier(JBC)です。

JBCバルクキャリアの線図

6往復にわたり14件の航海シミュレーションを実施し、最短距離航路と気象最適化した代替航路の両方を、異なる出発日・季節にわたってサンプリングしました。エンジンは常に設計運転点に保持したため、環境条件の変動は達成速度と燃料消費量の変動として直接現れました。

この結果からは、従来の設計レビューでは見えてこない知見が明らかになります。

燃料消費量 は、満載アウトバウンド航路において、6回のシミュレーション間で939〜1,008トンの範囲で変動しました。これは出発日ごとの気象、海流、ルーティングの違いのみによって生じる7%の差です。通常は単一の燃料消費量の数値で表される設計にとって、この航海当たり70トンという幅は、シミュレーションによって初めて可視化され、管理可能となる運航上の不確実性を具体的に示すものです。

気象最適化ルーティングにより、最短距離航路と比較して平均推進馬力が8.1%減少し、総燃料消費量が4.3%削減され、コストは4.2%削減されました。

この航路の波浪気候は、従来のシーマージンの前提よりも実質的に穏やかです。航海時間の70%は波高1.0メートル未満、94%は2.0メートル未満の状態です。これはESDの選定に直接的な影響を及ぼします。空気潤滑システムは航海のほとんどの区間で有利な条件を見出せる一方、風力補助装置については、世界的な平均値ではなく、この特定の風況に対して評価する必要があります。

何より重要な点として、このシミュレーションによって当該設計の規制上の立ち位置が明らかになりました。 この航路におけるJBCの達成CIIは、DWT-nmあたり約5.3g CO₂であり、IMOの2030年要求値である2.27g/DWT-nmと比較すると、この設計はEバンドに大きく入り込むことになります。達成EEDIはフェーズ3要求値を16%超過しています。パワートレインの調整、ウィンドアシスト、空気潤滑、低炭素燃料といった何らかの対応を取らない限り、この船はコンプライアンス上の問題を抱えることになりますが、それは従来の平水中における使用をベースとした仕様書からは明らかになりませんでした。

これを引渡し後2回目の年次報告サイクルで発見するのではなく、設計部門の段階で特定できること――これこそが、運航シミュレーションがもたらす価値そのものです。

設計ワークフローはどのように変わるのか

仕様書主導の設計からデータ検証型の設計への移行にあたって、ゼロから新たなツールを構築する必要はありません。商船の新造船の大部分では、既にNAPAの設計モデルが存在しており、運航シミュレーションはそれを再構築するのではなく再利用します。

変わるのは、意思決定の順序とそれを支える成果物です。選定したMCR、タンク容量、ESD選択の根拠は、今ではオーナーやクラスが検証できるシミュレーション出力――構成、入力データソース、出力分布――によって裏付けられます。これは航空宇宙やエネルギー分野で既に確立されているエンジニアリングの手法に近く、また同じモデルとインフラが引渡し後の実運航性能ベンチマークやレトロフィット評価に再利用される文脈にも自然に引き継がれます。

重要なのは、造船設計者の判断が重要性を失うのではなく、むしろ増すという点です。どの設計変更をシミュレーションする価値があるか、どの入力について感度試験が必要か、そしてシミュレーション出力が入力の不確実性を正直に反映するには精緻すぎる場合はどれかを判断することは、いずれもツールが自動的に解決できるものではない、エンジニアリング経験に基づく問題です。

今後の方向性

平水中の条件だけでなく、実運航性能の保証条項を含む最初の造船契約が、すでに市場に出始めています。これは今後加速していく移行を示すものです。オーナーはエビデンスに基づく性能保証をますます求めるようになり、それを提供できる造船所は競争入札において有利な立場に立つことになります。

運航シミュレーションは、そうした保証を裏付け可能にするインフラです。それは有用な能力から事業上不可欠な能力へと変わりつつあり、そしてその居場所は設計部門にあります。

本記事は、NAPAのLudmila SeppäläおよびAntti Pösöにより High Performance Marine Vehicles(HIPER)Conference 2026に提出された論文に基づいています。論文全文では、シミュレーション手法の全体と、ケーススタディのデータが詳細に示されています。

NAPA Operational Simulationは、NAPA Engineerの統合モジュールとしてご利用いただけます。 デモ を通じて、貴社の船種・航路に適用した様子をご確認ください。

Never miss a story

We will keep you updated on NAPA's insights related to the topics of your interest.