November 11, 2025
ネットゼロ枠組みの遅れにより、効率化への取り組みが一層重要に

NAPAは、IMO(国際海事機関)が重要なネットゼロ枠組みを適切に策定することを支持していますが、これらの規制の採択が1年間延期されたことにより、脱炭素化の進展はより困難になると考えています。
もし国際的な規制の整備がさらに停滞し、延期が12か月を超えて長引くようなことがあれば、世界共通の枠組みの代わりに、地域ごとに異なる排出規制制度が乱立し、それぞれ異なるコンプライアンス体制が求められる可能性があります。適切なサポートがなければ、このような分断は意思決定を遅らせ、監視や報告に関する不確実性を解消できないまま、造船会社や船員、陸上スタッフにさらなる負担を強いることになります。
これは、海事業界全体で脱炭素化の取り組みが加速する中、船員や陸上スタッフが新たな責任を担い、急速に変化する技術的・規制的な迷路を抜け出そうとしているまさにその時に起きています。鍵となるのは、データ管理と連携です。推進システム、航海計画、船上の業務フロー、設計プロセスなど、船舶運航の未来は、データ・技術・人をシームレスに結びつけるソリューションが主流となるでしょう。業界の分断化を助長するような規制や技術は、オペレーターや船員、陸上スタッフの負担を増やすだけであり、コンプライアンスや安全な運航の支援にはなりません。
IMOの今回の決定により、「FuelEU Maritime」や「EU排出権取引制度(EU ETS)」といった既存の地域規制が、今後もしばらくは中心的な役割を果たすことが確実となりました。これにより、「FuelEU Maritime」の過剰遵守(オーバーコンプライアンス)市場への注目が再び高まるでしょう。これまでIMOのネットゼロ枠組みとの整合性を見極めようとしていた企業も、今後は本格的に取り組みを進めると考えられます。たとえば、「FuelEU Maritime」におけるパフォーマンスは、商業的な競争優位性を左右する重要な要素であることが、改めて明確になりました。

また、「FuelEU Maritime」は、船員や陸上スタッフに対して排出量報告の責任を追加するだけでなく、強力な罰則を伴っており、すでに企業の収益に影響を与え始めています。罰金はVLSFO(超低硫黄燃料油)換算で1トンあたり2,400ユーロと高額であり、代替のグリーン燃料への投資を促すには十分な水準です。再生可能燃料のエネルギー密度、供給可能性、コストを考慮すると、効率化への技術の需要がさらに高まることが予想されます。
複雑化する規制への対応は不可避ですが、実際にはすでに多くの技術が商業的に成立する段階に達しています。たとえば、風力推進装置の導入は過去2年間で倍増しており、オペレーターがこれを実験的な技術ではなく、経済的に実行可能なソリューションとして認識していることを示しています。
FuelEU Maritime」は、風力補助推進システム(WAPS)の使用を明確に支援しており、風力報酬係数(wind reward factor)を提供しています。WAPS(カイト、リジッドセイル、サクションセイル、ローターセイルなど)は、航路最適化やウェザールーティングと組み合わせてこそ、その燃料消費量や温室効果ガス(GHG)排出量削減効果を最大限に発揮できます。
航路最適化もまた、かつては「あると便利」なものでしたが、今では経営層の優先事項となっています。なぜなら、燃料消費量とGHG排出量の削減が競争力に直結するからです。たとえば、NAPA、Norsepower、Sumitomo Heavy Industries Marine & Engineeringの共同検証プロジェクトでは、風力推進と航路最適化の組み合わせにより、平均で最大28%の排出削減が可能であることが確認されました。たとえこれらの燃料消費量とGHG排出量削減が、直近ではIMOのコンプライアンスにおいてそれほど重要でないとしても、商業的には見逃せない要素です。
IMOのネットゼロ枠組みの延期は、短期的には進展の鈍化を招くかもしれませんが、今回の投票はあくまで実施の一時停止であり、完全な中止ではありません。2025年10月のMEPC(海洋環境保護委員会)に向けて、業界ではこの枠組みがデジタル技術やクリーン技術を含む脱炭素ソリューションの価値提案を高める可能性について、頻繁に議論されてきました。このような議論は、当初想定より少し長期的な視点にはなったものの、依然として有効です。今、脱炭素化に投資する企業は、競合他社よりも早く動くことで優位性を得られる可能性が高いのです。
