December 18, 2025
炭素コストに打ち勝つ─航路最適化と風力推進

市場ベースの排出規制は、政策議論の段階から、海運会社にとって現実の金銭的負担へと急速に移行しつつあります。こうしたコストがもはや無視できない水準となるなか、運航事業者は船舶をより効率的に運航する方法を再検討しています。勢いを増す解決策の中でも、その効果の大きさ―そして相互に組み合わせた際の有効性―で際立つのが、航路最適化 と 風力補助推進です。
風力補助推進(WAPS)の導入:市場動向と予測
国際ウィンドシップ協会(International Windship Association:IWSA)によれば、導入が年々増加しており、2026年1月末までに風力推進技術を搭載した船舶は100隻に達する見込みです。IWSAはまた、英国政府の予測として、2050年までに船隊の40~45%(4万隻超)がこの技術を採用すること、さらにEUのより野心的な予測として、2030年までに10,700以上の風力システムが設置されることを引用しています。
IWSAの事務局長Gavin Allwright氏によれば、風力推進市場は、需要をさらに押し上げる好条件が重なり合う局面に近づいています。その背景には、持続可能性の潜在力への認識の拡大、価格の低下、技術提供企業の数が一定規模に達しつつあること、技術性能に対する評価の向上、そして現在および将来の規制政策の追い風があります。
IWSA London International Shipping Week 2025 Wind Propulsion Session のパネルディスカッションでは、登壇者は、これらの風力推進システムが脱炭素化の潜在力を最大限に発揮するためには、航路最適化技術が不可欠であると認識を共有しました。貿易風を活用できるよう航路を最適化することに加え、風力推進向けに特化設計された高度な航路最適化技術は、運航事業者と規制当局の双方に対して、効率性能の検証および妥当性確認を行う上で中心的な役割を果たします。
排出規制は海運コストをどう再編しているか
複雑化する排出規制の枠組みを的確に乗り越えられる海運会社は、コスト面で大きな競争優位を獲得できます。典型的な例として、EU排出量取引制度(EU ETS)の範囲内でコストを最小化できる企業が挙げられます。
Drewryのリサーチャーは、EU排出枠(EUA)価格を70ドルとした場合、EU ETSによる海運会社のコストが、初回の排出枠返上期限(2025年9月30日。2024年のCO₂排出量の40%が対象)までに約29億ドルに達したと予測しています。対象がCO₂排出量の100%に加えてメタンおよび亜酸化窒素(N₂O)まで拡大されると、このコストは75億ドルに上昇します。
FuelEU Maritimeは実効性ある規制であり、すでに企業の収益(ボトムライン)に影響を及ぼし始めています。罰金は厳格に適用され、VLSFOのエネルギー等価1トンあたり2,400ユーロという水準は、代替のグリーン燃料への投資を促すには十分に高いものです。これにより、効率化技術(例:航路最適化や風力補助推進など)への需要がさらに高まる可能性があります。
グリーン燃料は、海運のエネルギー転換において疑いなく重要な役割を果たします。しかし不都合な現実として、既存の石油系燃料に比べてエネルギー密度(発熱量)が低く、現時点では高価で、入手性も限られています。これにより、運航事業者には次の三つの選択肢が残されます。
- 補油(燃料補給)をより頻繁に行い、その分の港湾費用の増加を受け入れる。
- 燃料搭載量を増やし、その結果として収益を生む貨物搭載能力を減らす。
- 燃料使用量を削減する技術に投資する。(例:航路最適化、風力補助推進)
FuelEU Maritimeには、興味深い風力特典係数(Wind Reward Factor)も盛り込まれています。基本的に、WAPSを備える船舶は、船内で使用するエネルギーのGHG強度に関する年平均評価が改善されます。この改善幅は、有効風力と装備推進出力の比率に応じて最大5%に達します。
IMOネットゼロ枠組み(NZF)は、実質的に燃料標準と排出に対する価格付けを組み合わせた仕組みであり、その影響はEU ETSやFuelEU Maritimeに類似しますが、世界規模で適用される点が異なります。さらに、2028年以降はより高い排出削減要件が課されるため、NZFの影響力は一層強まります。一方で、NZFの影響や規制採用のスケジュールには依然として不確実性が残っています。とりわけ2025年10月、IMO加盟国が正式採択に合意できなかったことで、同枠組みの導入は最低でも1年延期されました。
風力補助推進に航路最適化の併用が不可欠な理由

これらの規制を組み合わせて分析すると、うまく対応するためには効率化技術が不可欠であることは明らかです。そして、その最も効果的な方法のひとつが航路最適化です。NAPA Voyage Optimizationは、単なる気象ルーティングにとどまりません。各航海における船速の最適配分を行い、船陸間の情報共有を強化し、最適入港時刻の達成を支援することで、運航事業者に燃料とコストの一層の削減をもたらします。
当社の航路最適化システムは、さまざまな風力補助推進技術の性能を支援し、さらに高めます。例えば、凧型帆(カイト)、硬翼帆、吸引翼(サクションウィング)、回転円筒帆(ローターセイル) は、すでにNAPAの航路最適化でモデル化が可能です。これらの技術は航路最適化システムと一体的に運用されるべきだという認識が広く共有されています。本質的には、風力の活用は、物理的な帆だけの話ではなく、気象ルーティングや航路最適化が同じくらい重要です。
風力補助推進船の航路設定は、考慮すべき要素が非常に多岐にわたるため、従来型のエンジンのみで推進する船舶よりもはるかに複雑です。航路最適化を実現するには、変化する風速・風向に加えて、波浪や海流を航海全体を通じて評価し続け(絶えず再評価し)、その時点で最良のルートを判断する必要があります。
NAPAでは、この課題に正面から取り組み、船舶運航者が風力の持つ燃料・排出削減の可能性を最大限に引き出せるよう支援しています。従来の手法や手作業に頼ったままでは、多くの削減効果を取りこぼしてしまいます。一方、NAPA Voyage Optimizationは、乗組員が複数の航路や船速の最適配分をシミュレーション・評価し、風のパターンを最大限に活用できるように船の針路を調整することを可能にします。
風力活用の触媒としてのデジタル技術の可能性は、燃料削減にとどまりません。今後、データ分析とシミュレーションツールは、特に帆が大型化・複雑化するにつれて、風力補助推進船の安全性と復原性をさらに高めていきます。これらの高度なシミュレーションおよび3Dモデリングツールは、設計段階における船主の意思決定も支援します。各船固有の運航プロファイルに適した効率化ソリューションの選択を助けるとともに、特定の航海における現実的な排出削減効果を予測することができます。
NAPAが風力補助推進の価値を最大限に引き出す方法

NAPAは、航路最適化のソフトウェアとWAPSを組み合わせた可能性を示す、複数のシミュレーションを実施してきました。たとえば、NAPA、住友重機械マリンエンジニアリング社、Norsepower社が主導した共同研究では、ローターセイルと航路最適化を併用することで、平均で最大28%の排出削減が可能であり、そのうち12%は気象ルーティングによるものだと示されました。
こうした計算の中核となるのが、NAPAの業界をリードする性能モデルです。NAPAの船舶設計の蓄積に根ざした数十年の知見と、実船の船上データを組み合わせ、信頼性と精度の高い結果を提供します。このモデルは、推進効率だけでなく、各種の風力補助推進システムがもたらす横力や復原性への影響も捉え、すべてのシミュレーションが実船性能を的確に反映するようにしています。これにより船主は、設置前のシミュレーション、運航時の航路最適化、設置後の性能検証のいずれであっても、WAPSへの投資価値を確かな裏付けをもって定量化できます。
端的に言えば、環境規制が拡大し、規制遵守コストが上昇するにつれて、WAPSと高度な航路最適化の組み合わせが、燃料消費、排出量、運航コストを削減するための最も強力な手段のひとつであると認識する船主が増えています。独自の NAPA Performance Model を土台とする NAPA Voyage Optimizationにより、運航者は航路の指針だけでなく、データで裏付けられた船の挙動に関する理解を得ることができます。これによって、より賢明な投資判断、より大きな削減効果、そして規制への対応力の向上が実現します。この組み合わせを採用する事業者は、競合にも規制圧力にも先んじることができるでしょう。
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