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July 2, 2025

NAPA User Meeting 2025:船舶設計の未来を形づくる

造船設計の第一線で活躍するプロフェッショナルが、2025年のNAPAユーザーミーティングのためにフィンランドのヘルシンキに再び集結しました。共通の目的はただ一つ-複雑化する造船設計の課題に取り組むことです。船舶設計者、構造エンジニア、流体力学の専門家たちが一堂に会し、効率性、革新性、協働性を高めるための知識共有と学びの一週間を過ごしました。

造船設計は、機会と複雑性の両方に彩られた新たな時代に突入しています。2024年には世界の新造船受注残高が過去17年間で最高を記録し、造船会社の生産量も13%増加しました。持続可能性の向上から高付加価値の特殊船、独自のゲスト体験を重視した革新的なクルーズ船まで、多様なニーズが強い需要を牽引しています。

また、造船業界全体の動向も見逃せません。政府による造船会社への投資の増加、防衛費の拡大、北極圏での活動への関心の高まりなどが挙げられます。こうした課題に対応する中で、造船業界は労働力と技能の不足、デジタル化と脱炭素化のプレッシャー、そして厳しい納期に直面しています。さらに、造船における「受注設計(Engineer-to-Order)」の要求とのバランスも求められています。この急速に変化する環境では、柔軟性はもはや有用なものではなく、不可欠な要素となっています。

NAPA User Meeting 2025に登壇するNAPA Design SolutionsのExecutive Vice PresidentであるMikko Forss

船舶の数、規制、そして設計の複雑性が増す中で、船の設計や運用のあり方を再考する機会も広がっています。2025年のNAPAユーザーミーティングでは、デジタルイノベーションが単なる流行語ではなく、すでに私たちの働き方を根本から変えつつあることが明らかになりました。統合された3D情報を活用した設計から建造へのデジタル連携プロセスや、ノードネットワークによるエンジニアリングワークフローの管理など、さまざまな取り組みが紹介されました。ここでご紹介する5つのポイントは、私たちが共に探求したアイデアのほんの一部にすぎません。

1. コンセプト設計から詳細設計・建造まで、3Dモデルによる設計から建造へのデジタル連携の実現

船を設計することと、それを効率的に建造することは、まったく別の課題です。ここで重要になるのが、船舶設計における革新と変革です。User Meetingでは、NAPAの構造設計部門でビジネス開発ディレクターを務める益井崇好が登壇し、NAPAの3Dモデルが基本設計段階を超えて活用できることを紹介しました。このモデルは、スマートな詳細設計の支援や、下流工程におけるデータの再利用性を高めるためにも活用可能です。 

「3Dワークフローの詳細設計への拡張」と題した講演を行うNAPA Design Solutions事業開発ディレクターの益井崇好

続いて、Chantiers de l’Atlantique社のHull Technical Department ManagerのClaire Baccard氏が、同社の船殻技術部門がどのようにしてこの設計から建造へのデジタル連携を実現しているかを紹介しました。益井の発表に続き、Claire氏は、基本設計から詳細設計へNAPAを活用して船殻構造設計の3Dワークフローを拡張し、Smart3Dを用いた建造設計フェーズにおいて高いデータ再利用性を実現していることを説明しました。この「ベスト オブ ブリード(最適な技術の組み合わせ)」アプローチにより、造船に特化したツールセットを使って構造の迅速なモデリングが可能となり、効率的な設計変更や、より多くの設計反復サイクルに対応できるようになっています。 

「Chantiers de l’AtlantiqueにおけるNAPA Steel:詳細構造設計の新たな次元へ」と題したプレゼンテーションを行うChantiers de l’Atlantique社Hull Technical Department ManagerのClaire Baccard氏

NAPAは、単なるソフトウェア提供者としてではなく、真のパートナーとしてこのプロジェクトを支援しています。ワークフローの共同開発や、船殻設計に関する技術的な知見の提供を通じて、共通のビジョンの実現に貢献しています。このプロジェクトは、デジタル造船所の実現に向けた大きな前進であり、高品質な成果、効率的なプロセス、そしてコスト削減に寄与するものです。

2. NAPA Engineerのノードネットワークでエンジニアリングワークフローを可視化  

現代の船舶設計は、新たな規制、計算手法、そして技術革新によってますます複雑化していますが、それに圧倒される必要はありません。NAPA Design Solutionsのビジネス開発ディレクター、Jan FurustamとマリンアドバイザーのThijs Mullerは、統合型船舶設計プラットフォーム「NAPA Engineer」におけるノードネットワークアプローチを紹介しました。この手法は、ローコードかつ視覚的な方法で複雑な設計やデータのワークフローを簡素化し、分野間の依存関係を明確にマッピングして表示することができます。

NAPA EngineerおよびNAPA Designerが、初期設計プロセスを分野横断的かつ統合的にどのように支援するかを紹介するNAPA Design Solutionsのビジネス開発ディレクターのJan FurustamとマリンアドバイザーのThijs Muller
ノードネットワークを活用することで、複雑なワークフローをどのように効率化できるかについても解説

機能をモジュール化されたノードに整理することで、船舶設計者は1つの環境内で、設計変更のテスト、再計算、代替案の検討を迅速かつ効率的に行うことができます。このアプローチを実際に試すべく、Jan とThijsは、NAPA Engineerとノードネットワークを活用し、船舶の確率的損傷時復原性を評価するケーススタディを発表しました。この手法により、迅速な復原性チェック、柔軟な設計対応、そして複数分野にまたがる造船設計課題に対する包括的かつ視覚的な理解が可能になることが示されました。

NAPA Engineerのアルファ版がご利用いただけます

3. カスタマイズ性に優れた「万能ツール

NAPAを「造船設計のスイスアーミーナイフ」と表現するUlstein社のHead of Stability & WeightのRadovan Gasparovic氏
複雑な課題や進化する業界ニーズに対応する多彩なツールがその理由

Ulstein Design & Solutions AS社のHead of Stability & WeightであるRadovan Gasparovic氏は、自身のプレゼンテーションの中で、NAPAを「船舶設計のスイスアーミーナイフ」と表現しました—それには確かな理由があります。あらゆる計算、解析、シミュレーションに対応するツールを備えたNAPAは、Ulstein社が複雑な設計課題に取り組み、業界の要求の変化に対応するための強力な支援となっています。

長年にわたるNAPAとの協力関係を基盤に、Ulstein社はNAPAを幅広い業務に合わせてカスタマイズしてきました。たとえば、クロスフラッディングの解析結果に対する高度なアプローチ、極地クラス図面の作成、AutoCAD出力の自動化、復原性小冊子の生成などが挙げられます。NAPAの柔軟性により、Ulstein社は画一的な方法に頼ることなく、複雑な規制要件にも対応することが可能となっています。

このプレゼンテーションは非常に刺激的で、Ulstein社が造船の卓越性に深くコミットしていることを示していました。Radovan氏の言葉を借りれば、「限界を決めるのはNAPAではなく、私たちのアイデアです。」適切なトレーニング、好奇心、そして少しの実験精神があれば、チームは大幅な時間短縮とスケール効率の向上を実現できます。

4. 設計から船級承認まで、3Dモデルで造船設計のバリューチェーンをつなぐ

3Dモデルベース承認(3DMBA)の力が、引き続き実際の現場で発揮されています。Meyer Turku社の船舶設計開発エンジニアであるSami Gusani氏、DNV Maritime社の計算ツール部門、Senior Principal SpecialistであるOle Christian Astrup氏、そしてNAPA Design SolutionsのSenior Software DeveloperのMyeong-Jo Sonは、造船会社と船級協会の間の情報のやり取りを、NAPAを通じて効率化する方法を紹介しました。

彼らは、共通の3Dモデルを「唯一の信頼できる情報源」として活用することで、部門や組織を超えたチームがNAPA Viewer上でモデルを確認し、コメントを付け、修正履歴を追跡できることを示しました。このような安全なWebベースのプラットフォームを活用した効率的なアプローチにより、エラーの削減、承認プロセスの迅速化、そして手間のかかる2Dから3Dへの変換作業の排除が実現されています。すべての関係者からのリアルタイムなフィードバックを取り入れることで、3DMBAは船舶設計および船級承認のプロセスを、より迅速かつ連携性の高いものへと変革しています。 

5. 協働によるイノベーション

NAPA User Meetingは、船舶設計者や海事分野の専門家にとって、真の協働、知見の共有、新たなソリューションの議論を行う貴重な機会であり続けています。今年もそれは変わりませんでした。オープンな質疑応答、ライブデモ、NAPAショールーム、実践的なワークショップなど、あらゆる場面で参加された皆様が積極的に知見を共有し、協働に臨まれていました。

NAPAユーザーコミュニティはこれまで以上に拡大し、つながりを深めており、こうした対話の価値はますます明確になっています。ユーザー同士が、現在の設計課題への取り組み方を共有し、共同プロジェクトの可能性を探り、船舶設計の未来について議論することができるのです。新しい視点を持つ参加者から業界のベテランまで、User Meetingは競争の枠を超え、開かれた協働の場を提供し、ユーザーが現状に挑戦する力を与えてくれます。そして、こうした交流を対面で行うことには、イベントを越えて続く関係を築くという、さらに大きな価値があります。

造船設計の未来を見据えて

この一週間を通じて得られた最大の気づきがあるとすれば、それはこうです:イノベーションは、協働によって生まれる。そしてこの協働は「あると良いもの」ではなく、「不可欠なもの」である。

市場、顧客、そして規制のプレッシャーのもとで船舶設計が変革を迎える中、業界が求めているのは画一的なツールではありません。必要なのは、直感的で使いやすく、船舶設計者や技術者が創造性を発揮し、限界に挑戦できる強力なツールボックスです。それを実現するには、私たち全員が積極的に知識や洞察を共有し、協力し合いながら、よりスマートなソリューションと働き方を築いていくことが不可欠です。

NAPAは、単なるソフトウェア提供者ではなく、船舶設計者と共に、次世代の設計ツールを共創する存在でありたいと考えています。協働によってこそ、よりスマートで、安全で、環境に優しい船舶設計と海運の未来を形づくることができるのです。

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