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2026年を迎えた海事業界において、「複雑性」はもはや一時的な課題ではありません。脱炭素、デジタル化、乗組員不足、地政学リスク、規制強化、安全性、商業的パフォーマンス – これらは個別に存在する問題ではなく、同時に解くべき運航上の現実です。

重要なのは、この複雑性が短期的な対処で解消されることはないという点です。今後、競争力を維持できる組織とは、規制遵守、商業的パフォーマンス、安全性を切り離して考えるのではなく、相互に連動する「運航の完成度」として統合的に管理できる組織です。  

もつれ合う課題には、分断された対応ではなく統合的な解決策が必要です。標準化され、相互に接続されたデータこそが、造船所から海上、さらには陸上運用までをつなぐ継続的なフィードバックの基盤となり、より良い意思決定、最適化された運航、そして信頼性の高い規制報告を可能にします。

以下では、データとデジタルソリューションが2026年に船舶設計、規制対応、運航をどのように変えていくのかを、5つの視点から整理します。

1: 脱炭素の現実解は、2026年も「効率」である

代替燃料の開発は進んでいますが、即時の脱炭素が求められる現実を踏まえると、2026年を通じて排出削減の主軸であり続けるのは「効率」です。

英国排出量取引制度(UK ETS)の海運対象拡大や、FuelEU Maritime の枠組み見直しといった地域的な動きに加え、IMO Net-Zero Framework を巡る国際的な議論も2026年の重要な節目となります。規制の行方が完全に見通せない状況においても、船主は既存制度の下で競争力を維持するため、効率改善への投資を続けざるを得ません。

OECDの分析が示す通り、代替燃料の採用は進んでいるものの、コスト、供給体制、カーボンプライシング、地域規制が依然として導入判断を左右しています。その結果、効率は一時的な対策ではなく、恒久的な商業要件となっています。

航路最適化、風力補助推進、性能モニタリングといった実証済みの手法は、燃料インフラが成熟するまでの時間を確保しつつ、即時かつ確実な排出削減を実現します。
実際、風力推進の導入は過去2年で倍増し、実験段階から商業配備へと移行しています。国際ウィンドシップ協会(IWSA)は、2026年初頭までに約100隻が風力推進システムを搭載すると予測しています。

NAPAでは、Norsepower社および住友重機械マリンエンジニアリング社と実施したシミュレーション評価により、ローターセイル型の風力補助推進を航路最適化と組み合わせることで、一部航路において最大28%の排出削減が可能であることを確認しました。これは理論値ではなく、拡張可能で、データに裏付けられた「今すぐ使える改善」です。

2:  クリーン技術に必要なのは、誇大広告ではなく「証明」

2026年に向けてクリーン技術市場が成熟するにつれ、性能に対する期待は一段と高まっています。同時に、過大な削減効果をうたう主張に対する懐疑も強まっています。運航事業者、金融機関、規制当局が求めているのは、監査可能で、透明性があり、第三者が検証できるデータです。こうした背景から、削減実績に連動する「pay-as-you-save」型の商用モデルが、2026年にはより一般的になるでしょう。これは信頼構築に寄与するだけでなく、サプライヤーが競争市場で導入規模を拡大する上でも有効です。

この業界に必要なのは誇大な宣伝ではなく、シミュレーションと実運航データを組み合わせた実証です。デジタルツインはもはや可視化のためのツールではなく、資本投下前に現実的な条件下で技術を評価できる意思決定基盤となっています。 

高度な3Dモデルを基盤とするデジタルツインは、性能、燃料消費、GHG排出量、復原性、流体力学特性の分析に加え、設計変更や運航条件の違いを事前に検証することを可能にします。これにより、設計初期段階から合理的な判断が可能となり、より持続可能で革新的な船舶設計を実現できます。とりわけ、代替燃料への対応が求められる船舶や、ウィンドアシスト推進などのクリーン技術を装備した船舶への需要が世界的に高まるなかで、こうした設計初期からの検証と意思決定を可能にするデジタルツインの重要性は、今後さらに増していきます。 

3: 人を疲弊させるデジタル化は、もはや通用しない  

深刻化する乗組員不足と、運航・規制の複雑化を背景に、デジタルツールには業務を増やすのではなく、確実に減らすことが求められています。負担を増やす技術は定着せず、逆に負担を取り除く技術だけが広く普及します。

DNV は、新しい技術の導入スピードが既存の作業慣行を上回っているため、「安全性のギャップ」が拡大していると警告しています。DNV Maritime の Knut Ørbeck‑Nilssen氏によると、現行の作業慣行と、船舶に急速に導入される環境配慮型技術との間に広がりつつある「安全性のギャップ」が広がりつつあるとして、強い危機感を示しています。

このギャップを埋めるうえで、データが極めて重要な役割を果たします。調査によれば、船内で生成されるデータの約90% は船内にとどまり、十分に活用されていません。この「データ鉱山」を活用すれば、運航の安全性と効率を同時に高めるための、実践的な知見を引き出すこと可能になります。   

電子航海日誌(Electronic Logbook)や作業許可(Permit-to-Work)の自動化、デジタルチェックリストといったツールは、乗組員の業務効率を高め、報告や規制遵守を容易にし、長時間労働による疲労を軽減するのに役立ちます。ガス輸送大手のAnthony Veder 社は、NAPA の電子航海日誌を導入したことで事務作業を 14% 削減し、1隻あたり 2,000 時間の業務削減を実現しました。2026 年以降は、必要なデータを一度だけ入力すれば船から陸上へ自動共有し、複数のワークフローで再利用するといった仕組みを持つソリューションの採用がさらに加速するでしょう。 

4: 船舶設計は「デジタル優先」へ そうしなければ遅れをとる

2026 年には、厳しい現実が明らかになるでしょう――従来型の設計手法では、現代の船舶設計に求められる規模とスピードに対応できないということです。世界の受注残は 6,000 隻を超え、ハイブリッド推進、代替燃料、耐氷仕様(アイスクラス)、特殊用途船などの増加により、ほぼ一隻一隻が「試作船」に近い状態となっています。つまり、設計の選択が、規制遵守、炭素性能、そして船舶のライフサイクルにわたる運航コストを直接左右する時代になっています。

こうした複雑性を、プロジェクトの遅延や重要なトレードオフの見落としなしに管理するためには、3Dモデルシミュレーションデータの共有によるデジタル統合は、もはや選択肢ではなく必須です。実際、ストックホルム—マリエハムン—ヘルシンキ航路の RoPax 新造船プロジェクトでは、シミュレーションツールによる設計の結果、未来の同船は 航行時間の約 50% を全速航行、25% を港内滞在、残りの 25% を低速運航で過ごすことが明らかになりました。

これは設計の観点で非常に重要な知見です。というのも、これによって船舶設計者は、必要となる推進出力の水準、船舶の効率、航路変更が燃料供給(バンカリング)に与える影響、安全規制との適合性といった点を、鋼材を切り始める前の段階で理解できるからです。こうした洞察は、エネルギー効率を最大化するための適切なエンジン出力や構成を決定する際にきわめて重要です。また、安全規制との適合状況の傾向を把握することは、大きな競争優位にもつながります。 
 

5: 孤立した技術革新ではなく、協働による前進を

単独の企業だけで、海運業が抱える規制面・運航面の複雑さを解決することはできません。2026年の進展は、業界全体の協働によって推進されるでしょう。船主、造船会社、船級協会、技術プロバイダーに至るまで、すべては安全で統合されたデータによって支えられます。だからこそ、パートナーシップと、協働を可能にするプラットフォームが重要なのです。

このパラダイムシフトを加速させるため、私たちは NAPA Studios を立ち上げ、業界が直面する最も重要な課題のいくつかに取り組み始めました。NAPA Studios を通じて、私たちは海運におけるデジタルツイン活用に関する業界横断の協働プロジェクトを主導しています。ここには日本の主要な海運会社も参加しており、造船会社と船主の間で安全なデータ共有の枠組みを構築することで、デジタルツインおよびデータ活用を推進し、船舶設計と運航の最適化を進めることを目的としています。この協働プロジェクトは、2026年以降もさらに発展を続けていく予定です。

将来を見据えると、進歩がパートナーシップに依存し、パートナーシップは共有され信頼できるデータに依存するということが、いっそう明確になってきています。複雑さが前提となるこの業界において、競争優位を生み出すのは、孤立した環境で単独に取り組むことではありません。むしろ、適切なパートナーと透明性を持って協働し、データを「道しるべ」として活用することで、しなやかな適応力を高め、持続的な価値を創出していくことなのです。

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