December 16, 2025
協業がイノベーションを牽引する日本の海事業界
日本の海事業界は、新たな課題と進化する要件に直面しています。NAPA User Seminar Japan 2025では、150名以上の業界関係者が神戸に集まり、脱炭素化、デジタル化、次世代船舶設計という課題に取り組みました。急速に進化するデジタルツインの活用事例から、AIによるワークフローの可能性まで、今年のイベントでは、協業がいかに造船の未来を形づくっているかが明らかになりました。

2025年10月、NAPA User Seminar Japanには、日本の海事業界のキープレイヤーが神戸に集まり、業界横断の意見交換の場を実現しました。毎年規模を拡大するこのイベントには、日本の造船エコシステム全体から過去最多の参加者が集まりました。造船会社、船級協会、エンジニアリング会社、船舶の所有・運航・管理に携わる企業(以下、船主等) 、そして学術界を代表する150名以上の業界プロフェッショナルが一堂に会し、イベントのテーマである「Shaping the Future of Ship Design(船舶設計の未来を形作る)」を探究する、またとない機会となりました。
NAPA User Seminarは、業界が増え続ける要件と新たな課題に直面する今、業界横断で開かれた意見交換ができる他にはない場を提供しています。脱炭素目標や進化する規制枠組み、さらにデジタル技術やAIの採用に至るまで、船舶設計はますます複雑化し、従来のワークフローに新たな層を重ねています。これらの要求に応えるには、高度なツールだけでは不十分で、バリューチェーン全体にわたる協業が求められます。
だからこそ、船舶設計の未来を築くには、業界を結集することが不可欠です。競争の垣根を越えて他の専門家と交流することは、単なる刺激にとどまらず、実践的な活用事例や知見を共有することで、お客さまと私たち双方に競争優位をもたらします。
セミナー期間中には、一般財団法人 日本海事協会、日本シップヤード株式会社、常石造船株式会社、株式会社大島造船所、檜垣造船株式会社といった、日本の海事業界をリードするステークホルダーから、NAPAの活用経験についてお話を伺うことができました。

よりスマートな船舶設計を切り拓く─NAPA User Seminar Japanで得た学び
今年の NAPA User Seminar Japan では、船舶設計の未来には大胆な革新と深い協業が不可欠だという明確なメッセージが共有されました。造船会社は、脱炭素目標、より厳格な規制、先進技術の統合への対応に加え、人口動態の変化やグローバル市場での競争という現実にも直面しています。示唆に富む複数の基調講演やプレゼンテーションを通じて、革新とパートナーシップが船舶設計をどのように変革し得るかが示されました。
Digital Twins:設計と運航をつなぐ
日本ではデジタルツインの活用事例が急速に進化しており、その可能性はセミナーの主要テーマの一つとなりました。日本海事協会の長 俊寿氏は基調講演で、共有型デジタルツインのイニシアティブを紹介しました。これは、設計データと運航データをつなぎ、業界横断の協業とデータ共有の枠組みを活用して複数の活用事例を創出する取り組みです。これにより、ライフサイクルにわたる資産管理の観点から、設計データから新たな価値を引き出すことが可能になります。

このアプローチは、シームレスなワークフローを可能にし、不整合を低減するとともに、造船会社・船主等・エンジニアリング会社の間で安全なデータ共有を促進します。さらに、設計と現実の運航性能のギャップを橋渡しすることで、デジタルツインは安全性・効率性・持続可能性に関する、よりスマートな意思決定を可能にします。
3Dモデルによる革新
複数の講演で、3Dモデリングが船舶設計をどのように変革しているかが紹介されました。株式会社臼杵造船所の山本隆史氏、石黒 雄己氏、川越 基貴氏は、NAPA と 3D CAD を統合し、より実務的で柔軟な設計環境を構築してきた取り組みを共有しました。一方、株式会社大鎧設計事務所の Robertus Bimo Sukoco氏は、2Dから3Dへの移行によって反復の高速化と精度向上が実現することを示しました。
新技術:生成AIと自動化
このセミナーでは、船舶設計の次の時代を形づくる最先端技術についても取り上げました。阪大OCEANSの一ノ瀬 康雄教授は、設計支援システムにおける生成AIの研究を発表し、AIが複雑な計算の自動化、設計バリエーションの作成支援、そして意思決定の迅速化をどのように実現し得るかを示しました。
複雑さに明確さをもたらす─船舶設計の統合的アプローチ
新たな規制や先進技術の導入により複雑性が増すなか、船舶設計における明確さは不可欠になっています。では、業界はこの複雑さをどのように明確さへと転換できるのでしょうか。NAPAの事業開発ディレクターである Jan Furustamは、統合的な設計アプローチによって、船舶設計における多分野横断的な課題に NAPA がどのように対応しているかを示しました。

彼は、NAPA Engineer が掲げる「単一の3Dモデル」という NAPA の理念を、最新のテクノロジーと原則を活用して優れたユーザー体験へと高めていることを紹介しました。NAPA Engineer の Node Network アプローチは、ローコードかつビジュアルな手法で複雑な設計およびデータのワークフローを単純化し、各分野間の依存関係を明確に可視化します。このアプローチにより、船舶設計者は複雑な課題を俯瞰的に捉え、圧倒されがちなプロセスを直感的に操作できる視覚化されたワークフローへと置き換えることができます。
これからの展望:日本の船舶設計の未来
NAPA User Seminar Japan 2025での議論から明らかになったのは、船舶設計の未来は、協業とテクノロジーが連動して形づくられるということです。生成AIや共有型デジタルツイン、統合された3Dワークフローに至るまで、日本の海事業界は、脱炭素目標、規制要件、そして運航上の課題に応えるためにイノベーションを受け入れています。
しかし、前進は新しいツールの導入だけではありません。人口動態の変化、グローバル市場の圧力、そしてエネルギー移行の複雑性に直面する日本の造船業界では、世代や組織の垣根を越えてギャップを埋めることも重要です。こうした力学が競争的な環境を生み出しており、とりわけ中小の造船会社には、持続的に成長するための新たな人材、新しいアイデア、そして現代的なプロセスが求められています。





このセミナーの協業の精神が、まさにそれを後押ししています。今年のイベントでもっとも価値のある点の一つは、船主等・造船会社・エンジニアリング会社の間で交わされた対話でした。こうした対話により、ステークホルダーは船主等のニーズに関する認識を揃え、設計プロセスを改善し、さらにデジタルツインの開発や、概念設計段階での排出フットプリントの運航シミュレーションを用いた次世代フリートの早期の将来適合性の確保といった取り組みを前進させることができます。その結果、より統合的で効率的な造船へのアプローチが生み出されています。

このセミナーでは、海事業界の方々と自由に意見交換ができます。いつも刺激的で、最新の業界動向や今後の取り組みについての示唆が得られます。
こうしたつながりを育み、新しい働き方を受け入れることで、このセミナーは日本が世界の造船業界の最前線であり続けることを後押ししています。NAPAは、協業を可能にするツールとプラットフォームを提供し、ワークフローを合理化し、効率性と持続可能性に関する新たな可能性を引き出すことで、この進化を支援していきます。そして私たちは、船舶設計がより高度になるだけでなく、より連携の取れた未来をともに形づくっています。