August 12, 2025
2025年度PSC検査の焦点は、「バラスト水規制への対応強化 」
今年9月から11月にかけて、ポートステートコントロール(PSC: Port State Control)による年次集中検査キャンペーン(CIC: Concentrated Inspection Campaign)が実施されます。今年のCICの最重要テーマは「バラスト水管理」です。

CICは毎年実施され、特に規制違反のリスクが高い分野を対象としています。2025年9月1日から11月30日までの期間、パリおよび東京MoUに加盟する港湾を中心に世界各地で、検査官はバラスト水の記録管理、システム性能、書類の整合性を重点的に確認をします。 この期間中、PSCによる検査では、MoUに加盟する50の当局管轄港への入港時に質問を受ける可能性があり、乗組員とバラスト水管理システム(BWMS)の双方が十分に対応できる準備が求められます。
検査で不備が指摘された場合、船舶は拿捕や罰金の対象となります。
表面的には定例のコンプライアンス確認にみえますが、実際には新たな規制要件が加わり、業界全体で依然として不備が散見される中、各船舶の運航準備態勢と規制遵守に対する姿勢を試す「ストレステスト」として機能することになります。

バラスト水規制遵守の重要性の高まり
2025年CICの対象範囲は、海事コンプライアンスの執行方法におけるより広範な変化を反映しています。かつて検査の焦点は技術的な不具合に絞られていましたが、現在のPSC当局は、運用上の行動、書類管理の徹底、そして乗組員の認識にますます注意を向けています。
バラスト水の記録管理は、最も重大な懸念分野のひとつとして浮上しています。パリMoUよると、バラスト水管理における規制違反のうち58%が、不十分な記録管理や事務的なミスに起因しています。
問題は単なる事務的な誤りにとどまりません。近年のPSC検査では、記録内容と実際のバラスト作業との不一致、記録簿と船内システムとの不整合、さらには古い書式の記録簿の使用といった広範な不備が指摘されています。2024年から2025年前半にかけて収集したDNVの内部統計でも、記録簿の不整合、電子システム承認書の欠如、そして未報告のBWMS不具合が、繰り返し確認されています。こうした不備が積み重なることで、乗組員、船主、そして経済的な収益に対するリスクも同時に増大していきます。

MEPC 82・83による規制強化
今回の検査は、規制の複雑さが急速に拡大しているタイミングで実施されます。MEPC 82で承認され、2025年2月に発効するバラスト水管理条約の改正では、バラスト水記録の明確性、正確性、完全性が改めて強調されています。改正内容には、より詳細な保守履歴の追跡、システム不具合時の明確な対応記録、そして乗組員がバラスト水管理手順を十分に理解していることの確認が求められています。
MEPC 83もこの流れを継承し、GHG排出からバラスト水の取扱いに至るまで、あらゆる分野でデータ報告要件を強化しました。その結果、書類管理と運航パフォーマンスは切り離せない関係となり、新たなコンプライアンス環境が形成されつつあります。
船主や管理会社にとって、これは単なる運航上の注意義務にとどまりません。コンプライアンス管理に用いるツールそのものを見直し、断片的あるいは手作業に依存した方法から脱却することが求められています。
従来型管理の限界とリスク
今日の課題をより複雑にしているのは、規制、検査圧力、そして業務負荷が同時に重なっているためです。乗組員はすでに航海計画や安全管理、排出ガスのモニタリングといった多くの責任を担っており、そこに加えて環境規制への対応業務が急速に増加しています。
このような環境下では、従来の記録管理モデル──紙ベースであれ、独立したデジタルログであれ──では不十分です。電子システムが導入されていても、最新の基準に合わせて設定されていなかったり、船内のデータソースと連携していなかったり、旗国承認もなければ、コンプライアンス違反のリスクは残ります。
拿捕につながり得るPSCでの指摘を含め、発生件数が増加している事例の多くは、記録漏れや古い書式の使用、記録簿とBWMSとの不整合といった防げるはずの問題に起因しています。さらに、CICがまさにこれらの脆弱性に焦点を当てて強化されるなか、対応を怠ることによるコストは、もはや仮定の話ではなく現実のリスクとなっています。
デジタル化によるコンプライアンス対応支援
2025年のCICでは、繰り返し発生するバラスト水管理の不備について、その根本原因まで掘り下げます。対象となるのは、システムの文書化や操作性だけでなく、乗組員の習熟度も含まれます。PSC検査官は、日常的な保守作業から、船舶のバラスト水管理計画に定められた処理が難しい水質(CWQ: Challenging Water Quality)への対応手順に至るまで、乗組員がBWMSを意図通りに運用できることを実際に示すことを求めるでしょう。
BWMSだけでは検査を通過できません。コストのかかる拿捕や運航の遅れを防ぐには、システムそのものだけでなく、それを運用する乗組員も万全に備えている必要があります。
こうした課題の中で、先進的なオペレーターは、船上と陸上の双方でコンプライアンス業務を効率化し、確実に実行できる連携型デジタルソリューションを積極的に導入し始めています。
NAPA Logbook はその代表例であり、業界全体で存在感を高めているプラットフォームです。特に、バラスト水の記録管理に加え、EU-MRV、EU-ETS、IMO-DCS といったより幅広いコンプライアンス枠組みにおいても活用されています。

単なるデジタル入力フォームではなく、コンプライアンスを推進する“エンジン”として機能します。NAPA Logbook はあらかじめ設定されたテンプレートによって最新の規制枠組みに準拠しており、乗組員が必要なデータを漏れなく、効率的に記録できるよう支援します。さらに船内システムと接続することで、次のような機能を発揮します:
- 関連項目の自動入力で人為的ミスを最小化
- 入力値検証による潜在的な問題検知
- 重要な保守作業の記録、BWMS故障時の対応措置のログ化、そしてタイムスタンプ付き入力やデジタル署名による記録の完全追跡
このような自動化と標準化の仕組みにより、乗組員の事務的負担が軽減されるだけでなく、定期的なPSC検査からCICの本格的な監査に至るまで、船舶が常に検査に対応できる状態を維持することができます。
船陸一体で築くコンプライアンス体制
デジタル化された記録管理の利点は、船内にとどまりません。NAPA Fleet Intelligence のような陸上プラットフォームと合わせることで、バラスト水のデータは、コンプライアンスやパフォーマンスを包括的に管理する仕組みの一部として活用されます。
ログは、リアルタイムで技術管理者やDNVのEmission Connectのような第三者検証機関と共有されます。これにより、重複入力の手間が不要となり、報告サイクルが短縮されるほか、コンプライアンス文書や排出量の算定、戦略的な意思決定に活用できる信頼できる情報源が確立されます。
このように、デジタル・コンプライアンスツールは、単なるバックオフィスの補助機能から、運航の柔軟性や事業継続性を支える中核的な要素へと進化しつつあります。
未来への展望
2025年のCICは、バラスト水コンプライアンスが「説明責任と備えの文化」を育むものであることを示しています。規制当局の監視が一層強化されるなか、その変化のスピードに対応できる最新のシステムが不可欠です。
デジタル・コンプライアンスツールを導入する船主は、単に将来に備えるだけでなく、同時に余分な業務負担を減らし、リスクを抑えることで、乗組員や管理者の本来の任務――安全で効率的、そして環境に配慮した運航――に集中できる体制を整えています。